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海月屋・辻正仁『短めでお願いします』

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言葉の弱さに燃え尽き そして君は歌うだろう(『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』 by 佐野元春)

う~ん、ちょっと残念なことがあって

それは直接僕に関するものではないのだけれど

その件に関して僕の中で起きたことがあり(ま、しょっちゅうなんだけど)

気持ちの収拾がつかなく

自分の役に立たない能力、あるいは勘違いについての話を長々書いてみたが

読み返して、あんまり人に話すモンじゃないなと思えてきたので

更新前に削除した。


その代わりに、先日書いた「詩的なものに惹かれる」について書こう。


っていうかね、「詩的」って話をすると必ず思い浮かぶ映画があるんで、その話をしようと思う。
『イル・ポスティーノ』という映画だ。

僕はこの作品を、数年前に亜璃西社のW社長に薦められた。薦められたのは、公開最終日のこと。
まだ会社勤めをしていた僕は、その日、たまたま休みで午後から亜璃西社に顔を出しに行ったのだが、僕が挨拶するとW社長は開口一番この映画のことを持ち出し、「絶対アンタが観るべき映画だから観てきなさい。今日で最後だから」と言ったのだった。

それで僕は公開最終日の最後の回の『イル・ポスティーノ』を観にいった。比較的地味な作品だし、宣伝もほとんどされていない単館上映だったと記憶している。そのせいか、最終日最後の上映を観にいった客は僕だけであった。僕は、誰も居ない劇場のど真ん中に座って『イル・ポスティーノ』が始まるのを待った。映画は僕一人のために上映された。

イタリアの離れ小島、父親と漁に出て生計を立てていた青年が主人公。
島にあってはこの生活が当たり前の暮らしであるが、彼はそれに馴染めない。
この島の数少ない娯楽である映画を見に行って、彼は上映されたニュースフィルムから、若い女性に大人気の詩人が、本土を離れ島にやってくることを知る。
主人公はその後、島の高台に住む詩人に毎日届く大量のファンレターなどの配達のために募集された郵便配達夫の職に就くのだが、それは詩人と近づきたいがため。
彼は、フィルムの中で多くの女性ファンが詩人を追い掛け回す映像を観て「コレだ!」と思ったのだ。
「詩人になれば女性にモテる」と。この辺が、ビートルズのフィルムを観て音楽を始めた僕にとって大変共感が持てる(笑)。

さて、毎日の郵便を届けるうちに、主人公と詩人は親しくなる。青年は詩人に「詩の書き方をおしえてくれ」と頼み、詩人のレクチャーを受けるようになる。
「詩を作るのは簡単なこと」、「大切なのは隠喩とリズム」と語る詩人の説明にワケが分からないなりにも、自分の心にあるものをなんとか表現しようと必死になる青年。
彼の言葉を聞き「そうだ、それが隠喩だ。できるじゃないか」と応える詩人。
はい、ここで一度泣きました(笑)。
僕は直接レクチャーを受けたワケではないけどね。このときのやりとりに僕は、主人公に自分を、そして詩人にジョン・レノンや佐野元春を重ねて観ていた。

そうして、主人公は自分の詩を書き始め、詩人との友情や信頼関係を深めていくが、やがて詩人は関与していた政治的な運動のために島を離れることになる。
「また必ず戻る」と約束した詩人は、青年に記録用に愛用していた小型のテープレコーダーを置いて行く。

しかし、詩人はいつまでも帰ってこない。
約束を信じ、詩人を待ちわびる青年は、自分たちの事を、島のことを忘れてしまわないようにと、詩人に手紙を送ることにする。詩を送ることをきっかけに結婚した女性との間に生まれた子供のことも知ってもらいたかった。そこで、詩人がしていたように、テープに声を録音して送ることを思いつく。

青年は詩人のテープレコーダーを持ち出し、自分の子供の紹介をし、島の酒場の音、山に流れる風の音、波の音などを録音する。一言「酒場の音」などとアナウンスを入れては、対象物にマイクを向けていく。

その場面の最後、夜の入り江に船を浮かべ、そこで青年は「この島の星空」といい、空に向けてマイクを突き出す。

僕はこの行為こそが「詩」だと思うのだ。

この意味について詳しく説明なんかしたくない。
これだけで理解できなくたって特にどうということもない。ただ説明を求めるなんて野暮なマネはご遠慮下さい。
「こういうことだよね?」なんて確認もしないでね。

それこそ「詩的」なことからかけ離れてしまうんで(笑)。



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