海月屋・辻の日々

※各記事下の「拍手」をクリックすると辻へのメッセージを書き込むことができます(非公開)                                        ※辻正仁の活動情報は【海月屋info】http://kurageyainfo.blog.fc2.com/をチェック!

あのね、わかんない奴もいるさって(「蕎麦屋」by 中島みゆき)


そんなに大きくない蕎麦屋にて蕎麦を食す。

客は他にもう一組先客がいるだけであった。

その先客の二人、どちらも張りのあるいい声をしていらっしゃって、聞く気がなくても会話が全て店内に響き渡っておる。

片方(A)はおそらく60歳くらいだと思う。もうすぐ定年とかいう話をしていた。
そしてもう一人(B)は70代の中頃だろうか。

話の感じからすると、この二人はかつて同じ会社で仕事をしていたか、あるいは同業の先輩後輩の間柄の模様で、Bはすでに引退しているのだが、「なんとかの会長」だとか「相談役」だとかなんとかをやっているらしい。
Aの方もそれなりに偉い方のようである。
そして何処と無く会話の端々から、両者とも羽振りのよい生活をしているようだ。

仕事の話やら、住まいの話やらが入り乱れていたのが耳に入ってきていたのだけれど、どうも話が噛み合っているんだかいないんだかわからない感じで会話が進行している模様。

蕎麦をすすりながらちょっと彼らの会話に注意を傾けてみる。

話題は二人の共通の知人であるCのことになっていた。なにかAとかつては仕事上の意見の食い違いなどもあり、感情的にもCの人間性だか道徳性だかを気に入っていなかったらしい。
でもちょっとしたきっかけがあって、AはCの人間性を見直し、共感または尊敬できるような出来事があったらしく、Cに対してこれまで誤解があったかも知れないというような事を、先輩であるBに伝えたいようだ。
ここから会話を記憶に従って書き記してみよう。

A「で、ですねその時にCさんの話を聞いて、ワタシ感心したんですよ」
B「う〜ん」
A「もともとワタシのCさんの印象っていうのが、Cさんはベンツに乗っていて…」
B「ポルシェだよ」
A「いえ、ベンツです。その前はそうです、ポルシェでした」
B「ポルシェに乗ってたんだよ、ポルシェ。あれはディーラーからかなりサービス受けたんだ」
A「そうですね。確かAさんの同じディーラーでしたよね?(ここで、先輩に気を使ってか、それた話に乗っかる)」
B「Cはポルシェの前はなんだったかなぁ」
A「いや、そうですねわからないけど、今はベンツに乗ってるんです。それで…」
B「ベンツなんか乗ってたら駐車場代金も高くつくだろう」
A「マンションのですか? いや、同じでしょう。 それで、ベンツに乗ってるんですけどね…」
B「いや、高級車になると違うぞ。オレが前に、あの…なんだスェーデンの…ベンツじゃなくて…」
A「ボルボですか?」
B「そうだボルボだ。その後でベンツだ。」
A「はい。私は今度ボルボにしようかと… それで、あの、Cさんがですね、以前は…」
B「この前、ウチの駐車場でな、クラウン乗ってる人がミラー壊れてたんだ」
A「…はい…」
B「それで管理人と大げんかになって…。管理人っていうか、去年の暮れにウチのマンションの管理してる会社でちょっとミスがあって」
A「ええ」
B「君のところは除雪はどうなってるんだ?」
A「いや、もうウチは降ったらすぐ業者が来てるみたいですよ」
B「ウチもそうなんが、玄関の階段のところが凍るんだ。ああいうのはロードヒーティングみたいなものがないとダメだな」
A「はい、歩くのがちょっと怖いですよね」
B「もう、歩道でもなんでも凍ってひどいだろう。若い時はいいんだ。もう年寄りになってくるとおっかなびっくり歩かなきゃならん。」
A「そうですね…。で、ですね。Cさんが…」
B「もう大きな道くらいは市が助成してロードヒーティングにしないと」
A「以前一回やめちゃいましたよね」
B「この前、流氷のところ走るあの、なんたっけ? 船の…」
A「はぁ...砕氷船ですか?」
B「網走かアレは? 根室か? 釧路の方でな…ちょっとトイレ行ってくるわ」

と、ここでB氏がトイレに立ち、店内がしーんと静まる。
そしてしばらくすると
「ハァ〜〜〜〜〜」
というAさんの深いため息の音が。

蕎麦をむせたぞ。

いやいや、どうもBさんは口に発したワードから頭の中で連想した事を次々に声に出し、そのワードでまた次の連想を引き起こしている模様で、Cさんの人間性の話は、「彼がベンツに乗っている」ところから一向に進まない。大渋滞(笑)。

本当は、紹介した会話もまだいくつもの分岐点があるんだが、とにかく先輩たるB氏は自分のペースで連想ゲームを繰り返し、後輩のA氏はBさんに伝えたい話があるにも関わらず、先輩を気遣って脱線した話に乗って、そのあとで軌道修正を試みるのだが、軌道はひたすらにそれていく。

どうも聞き耳を立てる前に会話が噛み合ってなさそうな気配だったのは、コレだろう。もうオレが来る前からずっと。

Bさんが戻って来るあたりでオレは店を出て来たんだけどね、Aさんは果たしてCさんの事を伝えられたであろうか?
伝えたとしても、Bさんは絶対にちゃんと覚えてないと思うぞ。









スポンサーサイト

未分類 |
| HOME |